空気 ~野口晴哉先生語録~

《野口晴哉語録より》


生活機関の原動力は、空気と水と食物である。


食べ物は七、八日食さなくても敢えて死を期すべきではないが、水となると二、三日で死に至る。しかし、空気となると二日はおろか、一日でも半日でも、一時間でも十分でも、とめる訳にはゆかない。


止息僅かに百五十秒にして死に至るのである。それ故生活機関のもっとも端的な原動力は空気であると申してよい。


その空気を吸うに人間はブツブツ言いながら吸い、泣きながら、怒りながら吸う。


食であれば心を和らげて食べねばならぬとか、泣いたり怒ったりしていては喉を通りにくいのでつい控えるが、空気となると他を罵りながらでも、悪事を企てながらでも吸う。


しかし人間はその一呼一吸によって生き、また常に清心を保つことが出来るのである。


健康を保つ第一の問題は、深く長く静かに呼吸することが第一である。浅く短く乱れた呼吸をする習慣を変えねばならぬ。その習性を改めねばならぬ。


その方法次の如し。

瞑目し心を落ち着かせ、体内より邪気を吐く、長く大きく口より吐く。みぞおちを指にて圧し、体を折り曲げて吐く。欠伸が出たらそのまま欠伸を続け、誘うように欠伸を育て、体内に老廃の気を残さぬようにすること。


瞑目静座、静かに後頭部より背骨に息を吸う。深く長く静かに吸う。背骨で吸うつもりでいるだけで良い。腰まで吸う。背骨や腰に汗が生じて温かくなり、下腹に自ずと力が入り背が伸びるに至ってやめる。


出来るようになったら、立姿でも、椅座(イスに座って)でも、電車の中でも机の前でも、何処でもやれるように練習する。


息が背骨を往来するようになると心機一新、大丈夫の心が生ずる。ごれ行気の術である。


―中略―


夜の呼吸は瞑目し、息の出入りを数える。一より百を数える。十にして数えるを忘れるようになれば良い。心静かになり、息長くなり、呼吸せざる如くになる。これ胎息の法である。アナ・アバーナとか、止観の法がこれである。数えて何となるか、それを考えるより心無きに至ることが、数息の玄妙に至る道である。

―後文略


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