暗闇 ~野口晴哉先生の質問に答えて~
≪野口晴哉先生の質問に答えて≫
【問】子供の頃聞かされた怪談や幽霊の話のせいかどうかわかりませんが、私は小さい頃から暗闇が嫌でした。大人になったら平気になるかと思っていましたが、未だに暗闇は苦手です。理屈では何も怖いことはないことは分かっているのですが、暗いところに一人でいると何となく無気味になります。このような古い固定観念を一掃するにはどうしたらよろしいでしょうか。
【答】
これは四十代の人の質問ですが、暗闇が怖いというのは、怪談や幽霊の話を聞いて怖いという固定観念が特別になくても、生きているものはみな暗闇が嫌なのです。
特に人間の場合はいろいろ知識が発達していますので、ただ暗闇が嫌だというだけでなくて、嫌だという感じの中にいろいろなものを空想して、他のものよりは、もっと強く怖いという感じを持つのです。
固定観念があるから怖がるというのではなくて、そういう生き物に共通した暗闇恐怖の敏感さをこの人が持っているということであります。そうしてその嫌な感じ、怖い感じのために、昔のいろいろな記憶を呼び起こしているのだろうと思うのです。
中略
生理的な問題として考えてゆきますと、明るいところがよいはずの人間でも、くたびれてきますと暗いところで休みます。獣も病気になると洞穴に引っ込み、眠くなるとあなぐらに潜り込みます。
けれども体に元気のあるうちは明るい方を求めて動いております。ですからこういう現象は、成長期ほど、つまりエネルギーが活発で、体に明るいところで動きたい要求が強いほどはっきり現れます。
そうして体が成長しきると、自分で自分の体を壊すような性の要求が起こります。性の要求というのはエネルギーを一気に消耗する要求であって、したがって死の要求といってもよいものです。
自分はもういらなくなるというので、次代の後継ぎをつくる要求が起こります。
そういう意味で性の要求は死の要求でありますが、その死の要求の起こり方が不充分のなために暗いところを怖がるのです。
子供が怖がるのは共通した現象です。生の要求が活発に働いて、性の要求が未発達のためです。
ボツボツ壊してよいぐらいに生きることが充実すると、性の要求が起こってきて体を壊し始めます。
従って成長の頂点からは死の要求はだんだん強くなってきます。そして暗闇も怖くなくなってきます。
ですからこの人の場合には、死の要求が不完全なのです。或いは性の要求が不完全である。つまり稚(おさな)い状態を保っているといえる。
そういう体の未完成なことが暗闇を怖がるという現象になっているのだろうと思います。
ですからこれは生理的な問題で、性の要求を果たす器官の発達を図るか、或いは内部的な何らかの不完全さを治してゆけばよいので、潜在意識的な問題としてこれを取り扱う必要はないと思います。
腰の伸びる力が足りないと、重い物を抱える時などは体を捻って耐える。こういうのは上下型の中に捻れが少し入っている場合か。或いは生殖器の発育状態が悪いとか遅いとかいうように、年をとっても、尚稚い要素を体の中に保っている場合の現象でありますから、これを頭の中の固定観念のせいにして、それを如何に掃除するかと工夫するよりは、腰を伸ばす運動をやる方が早いと思います。
中略
こういう人はたくさんにあります。ただ暗闇が怖いというだけではなくて、人の前に出て、進んで責任を背負ってゆくということが怖い。
年を取ってしまうと、自分で背負いきれないような責任まで背負って、政治家になるとか何とかいうように騒ぎますけれども、これは明らかに体が成長の絶頂を過ぎて、次代のためを考える方向に体が動いているのだと言えるわけであります。
その逆に成長が不充分の場合には責任を背負うことは嫌なのであります。中には自分で背負うべき責任まで逃げて、人のせいにしてしまうという場合もあります。
中略
そういう人は腰が硬張っているのです。伸び縮みが悪くなっているのです。だから腰の動かし方を観て、その人の生理状態、或いは心理状態を知るという方が、年を聞いてその人の生理状態や心理状態を知ろうとするよりは正確であります。
六十だから六十の心を持っている。二十だから二十の心を持っているかというと違う。やはり腰の弾力性からそういうものを観た方が本当だということになります。
私は腰の状況を観るのが専門ですから、誰が来ても腰だけ観ている。だから「何歳ですか」などと訊かない。
それで、今の暗闇が怖いというのは、天文学的な年齢に比べて生理的な年齢が若いということであります。
そういう稚さというものはいろいろな表現様式をとるけれども。腰に息を吸い込むということ、或いは腰の弾力を回復することによってどんどん変わってまいります。
何も一気に年をとる方に一生懸命になる必要はないのでありますから、ポツポツと大人になっていけばよい。暗闇を怖がるのは長生き型の一つの徴候だと、そう考えて、そういう体の充実の面に少し努力なさるとよいと思うのであります。
写真
by H.M. スマホ
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