舞台芸術での震え 〜野口晴哉先生の質問に答えて〜
≪野口晴哉先生の、質問に答えて≫
〈質問〉舞台芸術といわれるようなもので、よく慣れて芸に自信のある専門家でも、時に舞台で手や足の震えることがあります。動きの激しいものですと目立ちませんが、能のような静かなものでは目立ちます。動作が変わるのでどうしても止まらないそうです。
舞台の上では、ある程度"天心"に近いものと思いますが、この震えはどこかに緊張が残っていて、それを弛めるための活元運動のようなものでしょうか、お教え下さい。
〈答えて〉
ご質問には「舞台では天心に近いもの」と書いてありますが、舞台ではみんな気取りの塊りになっているのです。自分の実力より少しでも上手に見せたいという心構えが、この震えるという状況を作っているのです。
もう少し謙虚な気持ちで、実力並みのことをするつもりになれば震えない。誰でも実力以上に一生懸命、上手にやろうとする努力は悪いことではないが、しかしそれは舞台に上がってからではなく、普段の練習を十分に積んで、舞台では自然に伸び伸びとなれるようでなければいけない。
上手にやろうと気張っているうちは決して立派な舞台は務まらないし、この上手にやろうという気持ちが高まり過ぎるから震えるのです。震えるから一層、実力より余分に上手に見せようとする気取りが働いてくるのです。
端的に申しますと、その余分な気張りが普段の実力を発揮できなくしているのです。だから謙虚に、自分の普段の状態を見せるつもりで舞台を務めることが一番いい。
しかし先ほどお話しした頸椎三番が左に曲がっている人、腰椎の三番が右へ曲がっている人は、自然な状態を出そうとしても「もし、うまくできなかったら、どうしよう」という空想が働いて、上手にできなかった時の醜さを空想する。その空想に引かれて、不安な心になるのです。
人間は、「笑え」と言われても笑えない。しかし、嬉しいことを思い浮かべると笑える。「泣け」と言われたのでは、泣けないが、悲しいことを思い浮かべると自然に涙が出てくる。思い浮かべたことは意志よりも、行動になるのです。
そういう人の歩き方は、必ず左足の歩幅が大きく、右足の歩幅が狭い。だから、できるだけ右の足を大きくして歩く(左足は普通の歩幅)。
この歩き方を舞台へ出る前に、二、三十歩、歩いておく。これは、生理的に不安の起こりやすい人のためにやる方法で、欲張って上手に見られよう、褒められよう、誤魔化して良く見せようという欲張った人のためではありません。
欲張っている人は、まず慎みを会得することです。
写真
by H.M. スマホ
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